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「宗助さんと歩んで行くことに、迷いも躊躇いもありませんでした。大河内屋の未来を見据えるあなたに、それだけ惹かれていたんです。
柚花もきっと、私と同じ道を辿り、わかってくれるときがくるだろうと思っていましたが…。難しいものですね。
それぞれの考え方も違えば、見つめるものもまた違う、それは理解していたつもりでしたのに。
きっと、恭一さんとお話をしなければ気づかないこともあったでしょう」
私の胸はすぐに締め付けられ、勝手に涙が溢れていた。
お父さんは無言でその場に固まり、ただお母さんを見つめている。
お母さんはその眼差しをどこか遠慮がちに受け止め、穏やかにお父さんに頷いていた。
そこには、私の知らない2人がいるようだった。
何も出来ずにその場に立ち尽くしていると、私の背中にそっと、恭の手が添えられてきた。
顔を上げると、私を真っ直ぐ見つめている。
その瞳は、後押ししてくれているかのようなものに思えた。
私は手を握り締めた。
「…お父さん」
呼びかけると、お父さんは私へ顔を上げてくる。
一度深呼吸して、思いをゆっくり声に出していった。
「わがままで、自分勝手で、そんな私が長女に生まれてしまって、…ごめんなさい」
「…柚花」
「私みたいな子じゃなければ、きっと、こんな騒ぎになっていなかったはずなのに…」
涙が勝手に、瞳から溢れ落ちていた。
「申し訳ないって、思ってる。なんで私ってこんななんだろうって思ってる。贅沢な暮らしさせてもらっていたのに、習い事ひとつ真面目に通えず文句ばかり。自分でこなせることも何一つなくて、全部家のせいにしてた。
本当に、ごめんなさい」
そして溢れた涙を手で拭った。
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