第6話

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え?…恭も? 続いた言葉が意外で、私は目を大きくした。 動揺と言えばいいのだろうか、その後に続くことができない。 すると恭は、私の髪の毛に優しく触れてきた。 「先に、柚花の話を聞こうか?」 胸の中でドクンッと大きな音が響く。 私は慌てて首を振っていた。 「あっ、あの待って。…先に、恭から話して。私のは、その後でいいから…」 そう言うと、恭は頷いたのだろうか。 髪の毛に触れていた手は頬に回り、顔が近づくとすぐに唇を奪われた。 そして柔らかいキスをして、体を抱き締めてきた。 …ちょっと待って。 話は? 唇が離れると、私の体を持ち上げ、ベットまで運んでいく。 「き、恭!?…あの、話って!?」 声をかけるも、私を押し倒すと上に被さり、再びキスしてきた。 何度も何度も唇を覆うその感触が、まるで体を翻弄させていくようで、私は胸の中でダメだと叫んでいた。 唇が離れたのを機に、急いで声をかける。 「恭ってば、待って!話は!?」 もしかして、抱きたいとか、そんな感じのこと? 私は息を整えながら、次の言葉を待った。 すると、恭の唇は耳元へ回り、そっと呟いてくる。 「…何、考えてたんだ?」 「…え?」 「食事中も、終わってからもずっと、上の空だっただろ?」 それを聞いて、私は瞬きを忘れた。 「…なんで、あんな泣きそうな顔してたんだ?…俺が、気づかないとでも思ったか?」 見開いた目からは、静かに涙が溢れていた。 恭は私を、見ててくれたんだね。 嬉しさと、突きつけられてる現実が交錯し合う。 …言わなきゃ。言うなら、今だ。 そう思っていると、恭は私の背中に手を回して、お互いの体を起こしていった。 そして手を回したまま、再びギュッと抱き締めて、続けてきた。 「なぜだか分からないが、お前はいきなり俺の目の前から消えるんじゃないかって思うときがある」 それは、衝撃だった。 まさか、そんなこと思っていたなんて。 「いつだか、いきなり俺の目の前に現れたときみたいに…自由にどこか飛んでいきそうだよな。お前って」 暗闇に少しずつ目が慣れてきたものの、はっきりはわからなかったが、恭がクスクス笑っているような気配が伝わってきた。 本気で言ってるのか?それとも冗談なのか? 恭の内心がわからず、私はひたすら抱き締められていた。 すると手を緩め、私の顔を覗き込んでくる。 「…そう感じる俺は、どうかしてるのか?」
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