第6話

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次に届いたその声は、なぜだかものすごく思いが込められてるかのように、厚く重く感じられていた。 見えないんだけど、私には見えていた。 恭の哀しそうな、切なそうな表情が。 そんな顔してほしくない。でも、そうさせてしまったのは、全て自分のせい。 やりきれない思いが胸の中を埋め尽くす。 私は恭から視線を外し、顔を伏せていた。 何て言ったらいいのかわからなくて、必死に涙を堪えることしかできなくて。 すると、再び恭の手が私を包み込んでくる。 「ここに、いるんだろ?」 「…え?」 「ずっとここにいて、構わないんだからな?」 そう言うと、手に力が入るのがわかった。 そのままギュッと抱き締め、私の首もとに顔を埋めてくる。 その言葉に、ぬくもりに、仕草に、胸の中がギュウッと締め付けられた。 たまらず恭の首に手を回し、抱き締め返す。 込み上げてくる熱いものが半端なくて、目をきつくつぶった。 私だって、いたいよ。 出来ることならば恭から…。 「…離れたくない…」 そう言って恭の顔を両手で包み、自分の目の前に顔を上げさせた。 そして自分から唇を近づけ、重ねていく。 軽いものではなく、最初から大きく唇を動かし、思いきり深く激しく交えていった。 自分のそのままの感情をぶつけるように。 恭の唇もそれに答えるように動いてくると、再びベットの上へ押し倒されていった。 互いに服を脱がしあい、欲するままに欲し、求め合う。 そうなってしまうともう、止めることもできず、どうしようもなくて。 まるで磁石のように貼り付く体は、その後朝を迎えるまで、離れることはなかった。 部屋がうっすら明るくなってくると、私は寝返って恭の顔を見つめた。 今はただ、何事もなかったかのように、いつものあどけない寝顔がそこにはあった。 私は全く眠りにつくことが出来なかったけど、体をしっかり抱き締めてくれていた恭のおかげか、今はなんとか落ち着いている。 と言っても、結局恭に打ち明けることはできず、何も変わってはいない。 それでも私は、大河内家に見つかる前にここから出ていこうとしていた考えを、全て白紙にしていた。 他に別の考えが浮かんでいるわけでもないんだけど。 見つかるのは時間の問題。それは十分理解してる。
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