第6話

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…ただ。 そんな状況になっても、まだ恭のそばにいられるかもしれない、シャンティにいられるかもしれないという、極わずかな希望を胸にしていた。 その後の私は、昨日の自分の態度を払拭し、恭にも皆にも明るく笑顔で元気に接していた。 それでも午前中のうちは結構なくらいに胸の中で葛藤が起こっていたが、仕事が忙しくなってくると、それも次第に落ち着いていった。 時間は淡々と流れる。 特に変わったことも、気になることもなく、この日シャンティは無事に閉店を迎えた。 後片付けを済ませ、いつもならここでホッと一息となるはずなんだけど、全く気が緩むことがないのは実に苦痛で。 頭も心もすっきりしない。 そんなせいか、夕食を作ってる際にふと気がついた。 …あぁ、私、またお店のオープンボード出しっぱなしじゃない? 何かに気をとられてると、すぐこれだ。 片付けてこなくちゃ。 途中まで進めていた作業を止めて、急いでお店へ向かった。 入り口の鍵を開けてボードを中へしまおうと持ち上げると、後ろから声をかけられる。 「おつかれ。俺が入れるよ」 振り向くと、そこには晋くんが立っていた。 「あ、おかえりなさい」 そして、少し遠慮がちにではあるけれど、ニコッと笑顔を返した。 晋くんもそれに笑顔で答え、代わりにボードを持ち上げると、中へ運んでくれた。 「ありがとう」 そのお礼に、晋くんはコクンと頷いて続けてきた。 「…今日は、いなかった」 …いなかっ…た? あぁ、そうか。私に、教えてくれてるんだね。 きっと、いろいろ考えてくれてるんだろうなぁ。 申し訳ない思いで、胸がいっぱいになる。 私は、晋くんにペコッと頭を下げた。 「ホントに、ありがとう。ごめんなさい。なんか、迷惑かけちゃって…」 「何言ってんだよ。柚はもう、シャンティの一員だろ?謝ることなんて無い」 そして頭を撫でてくれるのだった。 晋くんの笑顔がうれしくて、その言葉がうれしくて、唇を噛み締めた。 「恭兄だって、きっとそう思ってる。何も心配はいらねぇよ」 私は、晋くんを見つめた。 「…やっぱり、恭には昨日のこと、話したんだよね?」 「ん?…いや、何も言ってねぇけど?」 「……え?」 不思議そうに私を見つめ返す晋くんを見て、頭がこんがらがってしまった。 てっきり晋くんは、恭に駅で見たことを全部話したんだとばっかり思ってたんだけど。 何も、言ってないの?
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