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ってことは、どういうこと?
恭はただ、私を見ただけであんな風に思ってしまったの?
何かを、感じたのかな?
いや、違うか。感じてくれたんだよね、きっと。
私はその場に静かに顔を伏せていた。
すると、晋くんが顔を覗いてくる。
「…柚?大丈夫か?」
心配そうな表情を前に、こんな私じゃダメだと喝をいれようとした。
そのときだった。
シャンティの入り口が再び開かれる。
その気配に、私と晋くんは顔を上げて振り向いた。
そこからやって来たのは龍くん。そして、その後に続くスーツ姿の男性が1人。
私はその男性を見た瞬間に、その場に凍りついていた。大きく目を見開いて。
どうして坂本が…なんていう疑問は全く浮かび上がることもなく、瞬きすることも忘れてひたすら見つめていた。
思考は働かず、言葉を発することもできなくて、力なくした私の体がその場に崩れそうになる。
坂本はお店の中を見渡すと、私に視線を向け、ただ静かに、表情を変えることなく、真っ直ぐ見据えてきた。
その眼差しに、私の手が微かに震えだす。
晋くんは隣にいて何かを感じたのか。
すぐに声をかけた。
「おい、待てよ!そいつ誰だ!?」
どこか険悪な声がお店の中に響く。
「え?怖い顔してどうしたの?…お客様に失礼でしょ。さっき声かけられたんだ、恭兄の店探してるって。だから案内してあげただけなんだけど」
晋くんとは真逆に、龍くんは笑顔でそう言ってきた。
「突然申し訳ありません。どうしてもこちらにお伺いしたかったもので…。いろいろ調べさせて頂きましたが、とても人気のあるお店のようですね」
後に続いた坂本が、ニコッと微笑む。
それを聞いて、私の胸は大きく高鳴る鼓動の音で張り裂けそうだった。
…調べた?
いったい何を?
「悪いが帰ってくれ。あんたに出すものも見せるものもない!」
強い口調と共に、私の前に出てかばおうとする晋くんの背中が目に入ってきた。
「おい、晋兄!何言い出すんだよ!?失礼だろ。せっかく来てくれたのに」
「龍は黙ってろ。…俺、あんたの顔覚えてんだ。昨日駅にいただろ?俺に声をかけたのもあんただ!」
さらに晋くんの声が大きくなると、坂本は微笑んだままコクンと頷いた。
「晋一様のおっしゃる通りです。事は早く済みそうですね。私の目的はただひとつ…」
次に響いたのは、坂本の冷静な声だった。
「柚花様、お迎えに上がりました」
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