E.3

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次に会うのは三日後と約束しておきながら、私の仕事の都合でさらに一週間先伸ばしにしてしまった。 そう電話したときの彼の様子。 絶望したような、それでいて幾らかは悦びが混ざる声色で、それなら仕方ないねと。 ――今。 健気に約束を守り通した彼は、悲鳴をあげるほど褒美を与えられて、精魂尽き果てたという顔をして伸びている。 私が持ち出したのは普通のタオル。くったりとした彼の目を塞ぐためのもの。 もう無理だと言うけれど。 それを決めるのは私でありたい。 視覚を奪い、背後から。 鎖骨から始め、耳へと首筋を指でなぞる。触れるか触れないかという柔らかな触れ方、逃げようと身を捩る彼が愛おしい。 愛おしいから、泣かせたくなる。 号泣では趣がない。目尻に浮かぶくらいがいい。そしてその涙を拭いつつ、なにも心配することはないのだと囁いて。 ……最近の私は、どうにもおかしい。 耳朶を甘く噛めば、微かに喉を震わす彼。 こんな「異常な」関係になりたかったわけではなかった、はずなのに。 あの時、彼を踏みにじったあの瞬間、私は確かに灰暗い快感を覚えた。
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