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普通のカップルにはなれないのだろうかと悩む私をよそに、彼は嬉々としてあるものを手渡してきた。
どこからどう見ても犬用の首輪と散歩紐だ。
「……お手?」
私が差し出した手のひらに重ねられた手のひらは、当然人間のもの。
私は犬を飼っていない。
ならばコレは、何に着けろと言うのか。期待の笑みを向けている彼は、犬になりたいとでも言うのだろうか。
「あなたに?」
彼は頷いた。
体格からしても大型犬か。
腕時計のベルトと同じような仕組みであるから、動物に首輪など着けたことのない私でも簡単にできる。
そもそも協力体制が万全に整っているところが犬や猫とは違う。
犬のような体勢で床に直接座り込んでいる彼の首輪に、散歩用の紐を取り付ければ。
大型犬は躾の行き届いた犬さながらに私の横にぴたりと着いて、私の顔を見上げる。
部屋の中ではあるが、散歩させてみることにした。
私は犬を飼ったことがない。当然散歩などしたこともないのだが、道ですれ違う犬連れの真似をして歩いてみる。彼は四つ足で追ってくるが、そもそも人間。どうしても私の方が早く進み、半ば引きずるような形になってしまう。
手綱にかかる重さが増したときに足を止めることはするが、立ち止まった犬を急かすように紐を引けば、彼はとても嬉しそうにしている。
首輪を外せば人間になる。
さすがに外出するときは外すものの、家にいる間はずっと嵌め続けると彼は宣言した。
これでも説得できた方だ。
仕事以外のオフの時間全てで嵌めっぱなしでいたい、こればかりは依頼されても曲げないと宣う彼を、懇々と諭してここまで譲歩させたのだ。
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