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足裏に靴下とスラックス越しとはいえ、幾らか固い筋肉を感じて脚に力を込める。踵から爪先に向かって圧のかける位置を変えながら、じわりじわりと体重を乗せていく。
ちらりと彼を見れば、悦ばしげな、恍惚とした表情を浮かべている。……奇妙な光景だ。初めて訪れた恋人の家で、その恋人を踏みつけている。頼まれたからとはいえ、私はこの後どうしたらいいのだろうか。
時おり彼が漏らす声に幽かな色を感じて、本当に悦んでいるのだと知った瞬間。
恋人を踏むという、「普通」ならあり得ないはずの行為に、何かが背筋を駈け上る感覚があった。
彼の声に含まれる色をもっと強く聞きたいと、艶やかな声を上げさせたいと。
そうは思っても何処まで文字通り踏み込んでいいものかわからず、躊躇う。
それを感じたのか、彼は言う。もっと思いきりやってくださいと、掠れた声で。
私は意を決して立ち上がった。
太股のなるたけ内側、柔らかい部分めがけて踵から踏み込む。
艶を増した声が耳に届く。
気にせず、踵に力を込めてぐりぐりと動かす。スラックスにシワがよるのではないかと常識が頭を巡ったが、これは彼が望んだことだから、と自分を正当化させたことは間違いない。
……スラックスは不自然な形に変化している。苦しくないのかと問えば、少し、と答える。
それならば。
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