E.2

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彼は私のことを忘れてはいない。肩を震わせ、罪悪感を含んだ目で時おり私を見るのだから。 手首を取り、白く塗れた指先を彼自身の口許へ導く。僅かな抵抗はしたものの、一瞬にしてかき消えた。指を第二関節まで押し込み、舌へ擦り付ける動きを何度か繰り返せば。 私が補助しなくても、恍惚とした表情で指をしゃぶる。すぐに、なにかをねだる目付きになっていた。……欲しければ私が満足するように請えと言えば、欲情のフィルタのかかる頭を稼働させて辿々しく許可を請う。 その様はひどく無様で愛らしく、私の加虐心を満たすものだった。 「駄目です」 うちひしがれ項垂れる彼の頭を撫で、更に絶望の淵へ叩き込む言葉を告げる。 次に会う日――三日後まで、許可した時間以外には触れてはならない。 彼ならできるはずだからと囁けば、耳まで赤くして激しく頷いた。 私は帰路に着いて。 自分の指示通りに動く彼のことを大型犬のようだと思いつつも、これで良かったのかとしばし一人問答していた。
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