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耳の奥に残響がいつまでもこびりつく。
えっと、そう。これは耳鳴りって言うんだっけか。
肩で息をしながらスタンドマイクに両腕を乗せて、彼が得意気にニヤリと口の片端を吊り上げる。
「どうだった?」
「や、アタシ音楽とかわかんねーし」
それでも、マイクを通した彼の叫び声は鮮烈で。少しゾクッとしたのは確か。
アタシは無意識の内にしていた拍手の手を止めて。
「でも、イケる気がするよ」
力強く、背中を押すように頷いた。
たったそれだけだったのに、きっかけはアタシだったのに。
正直アタシは、その時からもう。彼を遠い世界に居るように感じていたのかも知れない。
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