アッチェレランド

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「なぁなぁ、シオも入れよ。軽音」 授業が終わるや否や、椅子に逆向きに座り直して。にこにこと人懐っこい笑顔を浮かべるコイツは鈴木玲二。 中学の卒業式が終わると同時に染めた茶色の髪が、春の陽射しを浴びて柔らかく輝いていた。 「素人が今更でしょ?確かに文芸部は肌に合わなかったけど、気楽に幽霊しながらバイト生活かなーって感じ」 同校出身で、アタシの事を知っているとは言え。流石に周りの目もあれば、大して楽器を弾くことに興味も無い。 余所行きの仮面を顔に張り付けたまま。随分鬱陶しくなってきた前髪を気にしながら、素っ気なく返す。 根っからの文学少女って訳じゃないけど、本が好きだったからなんとなくで選んだ文芸部。 いざ何も調べずに入部してみたら、皆さん結構本気でいらして。アタシとしては居心地が悪かった。 「じゃあさ!たまにで良いからスタジオ付き合ってよ、あれからまた上手くなってっからさ?」 一人の小遣いじゃ足りないからと、泣き付いてきたあの日の事が自然と脳裏を過る。 スタジオ代を半額出させられただけの価値はあった。そう思わされただけの玲二の声。 本気で音楽が好きなんだって、それだけの魂を感じた。……気がする。 「良いよ、メンバー決まったら挨拶がてら顔出したげるから教えて。非公認マネージャーって事で一つ」 そんな台詞を吐きながら、アタシは机の横に引っ掛けた鞄を指先で掬い上げて肩に担ぎ立ち上がる。 「あぁ、今日面接だっけか?」 「そ、コンビニだけどね。別に稼ぎたい訳じゃないし」 化粧やら、お洒落やら、高校生にもなった女の子なら興味を持つだろう辺りには全然気持ちが動かない。 かと言って、今更運動部で頑張るってのも何か違った。 窓から見える、同級生達がグラウンドを必死に均す姿を見て改めて思う。 取り敢えず働く、そうすれば暇な時間が潰れる。 そのついでにお金が手に入るなら万々歳だ。 「受かるよう応援してっから」 「受かるから平気、早くメンバー決まるように祈ってるよ」 そんな別れの挨拶を告げて、ブレザーのポケットに片手を突っ込んで歩き出す。 生まれつき赤い髪のアタシを避ける同級生達の中を。
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