罠。

13/37
前へ
/251ページ
次へ
弥吉にしてみれば、どれ一つとして周りに知られる訳にはいかないのだ。 当然十八番の久貝流万能作法など、そんなものは初めから存在していないように装うしかない。 すると嵐山は、まるでそんな弥吉の胸中を見透かしたような表情を浮かべ、笑いを堪えつつ口を開いた。 「安心しぃや0点ダボ。 アレとこれとは関係あらへんさかいに」 「あ、当たり前だ…」 とりあえずそう言い返しはしたものの、弥吉は針の筵に正座させられている思いである。 当然それはすぐに焦りの表情となって弥吉の顔に表れ、それを見兼ねた弥吉の父久貝島作(くがい=とうさく)が口を開くのであった。 「何だね君は? いきなり人の息子をダボ呼ばわりするとは、作法のかけらもないな」 内心所詮は若僧だなと嵐山を鼻で笑いながら島作。 その顔の端々に、海軍兵学校生徒とは言え、たかが若僧が何を偉そうにと、極めて下手くそな字で殴り書きしてあるようにすら見える。 すると嵐山は、それに怯むどころか喜々として言葉を続けるのであった。 「お言葉でっけど0点ダボのおとん。 人に名を尋ねる時は、まず自分から名乗るのが作法なんとちゃいまっか?」
/251ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加