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穏やかながらもキッパリと左京。
自称一流倶楽部の連中はあたふたと目を泳がせ始め、付添人連中は何か言おうとするも思うように言葉が紡げないでいる。
場を暫しの沈黙が支配してから1分程過ぎた頃、左京がゆっくりと口を開いた。
「どうやら異論のある方はいらっしゃらないようですね。
出光校長、お手間をかけて恐縮ですが、今回の件をもう一度初めから…」
「その必要はないッ!今事件は本日只今を以て、陸軍参謀本部付参謀本橋啓吾陸軍大佐の指揮下に…」
「見苦しい真似は止さないか本橋大佐。
こちらの松上左京警部は、永野海軍大臣から正式な要請及び許可を得た上でこの場におられる一人だ。
それに第一、貴官は軍法の専門家ではないではないか。
如何に陸軍参謀本部付参謀とは言え、そんな横車を押すなど越権行為もいいところだとは思わんのか」
穏やかながらもキッパリとした声で啓吾をそう窘めたのは、左京でもなければ雷造でもない。
報復裁判の後半が始まってからというもの、自己紹介を除けば口を閉ざしたままであった背広姿の老紳士こそが、啓吾を窘めた張本人であったのだ。
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