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「貴様…」
「貴官に貴様呼ばわりされる覚えはない」
今や道化と言えるかすら怪しくなったとは言え、仮にも陸軍大佐である啓吾をあっさりと制した事から見ても、嵐山は老紳士が海軍の高官である事がほぼ間違いないと見ている。
しかし、ずっと後の世とは異なり情報網そして通信網がまだまだ発展途上であった昭和11年当時のこと。
当然目の前の老紳士がどこの誰であるかなど、若者たちはもちろん付添人たちも今のところ知る術がなかった。
それを知ってか知らずか、老紳士は話を続ける。
「どうだろう阿久津巡査部長。
松上警部には申し訳ないが、本橋大佐
殿
は大阪府警の捜査だけでは御不満らしい。
急な話で済まないが、君の父上に相談するのが公平だと思うがどうだろう?」
「お、おとんにでっか?
そない急に言われたかて…」
なぜかバツが悪そうに雷造。
愚かにも付添人たちは、それを老紳士の悪あがきだと誤解してしまう…
やがて啓吾が口を開いた。
老紳士そして雷造への侮蔑を惜し気もなく顔一杯に浮かべながら。
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