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「貴様…」
啓吾は口でこそそう威圧しつつも、陸軍参謀本部付参謀の威光に微塵も動じていない井上氏の堂々とした姿に、内心とは言え漸く焦り始める。
すると井上氏は、明らかに呆れ果てた表情を浮かべつつ言葉を続けた。
「やれやれ…
横須賀の井上と聞いても、まだ私が誰か分からんとはな。
どうやら貴官は、軍服と階級章がなければ人の見分けすらまともにつかないようだ。
そんなざまだから、無知な陸軍のバカ参謀等と呼ばれるのではないのか?」
「貴様!
誰がバカ参謀…
よ、横須賀の井上!?
まさか…
…横須賀鎮守府参謀長、井上成美(いのうえ=しげよし)海軍少将閣下…」
啓吾の顔から、否、一味の顔からみるみるうちに血の気が引いてゆく。
そして、それを予め見越していたかのようなタイミングで自習室の扉が静かに開き、徳三郎と茂が姿を現すのであった。
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