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「!
こ、候爵…
あんまりであります井上閣下…
それならそうと何故教えて…」
井上少将の言葉を聞くなり、たちまち青ざめながら啓吾。
しかし井上少将は、それをもあっさりと無視し徳三郎に話し掛けた。
「松本さん。
最近阿久津巡査部長の父上は如何お過ごしですかな?」
「兵やんでっか?
恐らく有馬温泉でっしゃろ。
この前からずっと、腰が痛い腰が痛いて言うてましたさかいに」
「うーむ…
それでは無理を言う訳には参りませんな…」
「鬼憲兵と謡われた兵やんも、寄る年波には難儀しとうみたいですわ…」
しみじみと徳三郎。
しかしその口から出た言葉は、そのしみじみとした口調とは裏腹に更なる恐怖を六人に与えてしまう…
それを知ってか知らずか、徳三郎は言葉を続けた。
「なんや井上さん。
雷造君のおとんのこと、まだ誰にも言うてへんのかいな?」
「阿久津巡査部長の意志を蔑ろには出来ません」
「井上さんらしでホンマに…
ええな雷造君?」
雷造の顔を見ながら徳三郎。
まさか父の親友の顔を潰す訳にはいかないから、雷造は少しだけ苦笑しつつこれに頷いた。
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