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「雷造君のおとんはなぁ。
先の大阪憲兵隊司令やったお人や。
名前は阿久津兵造。
そこの陸軍さんも、鬼憲兵か鬼の兵造の異名は聞いたことあんのとちゃうか?」
啓吾の顔をチラリと見ながら徳三郎。
その言葉に啓吾が、顔面蒼白になりながら何度も頷いたのは言うまでもなかった。
それに苦笑しつつ徳三郎は言葉を続ける。
「雷造君も人が悪いでホンマに。
泣く子処か懲治隊(ちょうじたい。陸軍の不良兵矯正部隊。海軍の神様分隊に相当)や陸軍刑務所上がりの連中も、鬼兵と聞いた途端ピタッと黙り込んだもんやで?」
「松本のおっちゃん。
おとんはおとん、ワイはワイや。
どこぞのダボやあるまいに、親の七光りに縋ってまででかいツラしとうないがな」
とある方向をジロリと睨みながら雷造。
その方向に、もはやぐうの音すらも出せない六人がいたのは言うまでもなかった。
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