蝉の声

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 俺は笑いを堪えて、紅茶を口に含んだ。 「うん!”わ~凄いな~“って思いながら色んな絵を見てるとね~なんだか、心が満たされるの」  ベンチから立ち上がって、腕を後ろに回して俺の方に顔を向けた。勿論、笑顔でだ。  ちょっと今、胸の鼓動が早まったよ…。 「分かるよ、その気持ち」  紅茶を飲み干し俺もベンチから立ち上がって、ゴミ箱にそれを捨てた。  孤児院の行事で初めて行った展覧会で大きく飾られた絵を見た時、コポコポと何かが心を満たしていく感じがした。  小さい時から絵を描くのが好きだったけど、あの日以来、真剣に絵を描くようになった。  少しでもあんな絵が描けるようになりたいって、その頃思い始めたんだ。  勿論、今でもそう思ってる。 「本当!?やっぱゼルくんはお兄ちゃんとは似てないね」  そらまぁそうでしょ?
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