蝉の声

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 似てたら逆に怖い。 「ゼルくんは~雰囲気以外お兄ちゃんにそっくりなの。だから、初めてみた時吃驚しちゃった」  紅茶を飲みながら器用に右手を上下させ“やだもぅ“ってな感じを表現している。  ほんとやだもぅって感じだな。そんな理由で俺の顔覚えてたなんて…。 「そんなに似てる?」  なんだか反抗的な言い方になってしまった。  でも、お兄ちゃんと顔が似てるから認識されていたって聞かされたら、誰だって引っかかるよな? 「初めはそう思ったんだけどね、今は似てないと思うよ。ゼルくんはゼルくん!他の何者でもないたった1人の人。そう思うの」 ギュッ  俺は思わず彼女を抱きしめていた。  いままで孤児院にいて、どこにも貰われなくて…俺は俺である事が嫌な時期もあった。  でも、やっぱり俺は俺であって何者でもない。
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