蝉の声

5/21

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
 タイトルだけでも十分凄いのに、絵の構成も凄い。  嘴を赤く染めた真っ黒な烏に囲まれて、赤い薔薇が一輪咲いている。  なかなかインパクトのある絵だ。しかも、この絵の薔薇の色が、まさに血の様に赤くて不気味だ。  実を言うと、俺はこう云う絵を描くのがとても苦手だ。それは描いてるこっちが気持ち悪くなるから。  前に挑戦した事があるんだが、下書きの時点で断念してしまった。 「ねぇこの赤色、本物の血みたいな色だね~」  彼女は感嘆の声を上げた。 「そうだな」  ジーンズのポケットに手を突っ込んだまま、彼女の背後から返事をした。  彼女のように間近で絵を見るのはなるべく遠慮したい。  だってなんだか生々しいよ、その絵。 「…ねぇこの絵、独特のニオイがするよ?なんか生臭い気がするの」  絵に触れるかどうかくらいの所まで彼女は鼻を近付けている。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加