蝉の声

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 俺は少し気になり、彼女の隣に立ってニオイを嗅いだ。 「あぁこれは“ブラッディ”だ。絵の具と一緒に混ぜる香料だよ」  “血なまぐさい”と云う意味の香料だ。この絵にはそれが使われており一層気持ち悪い仕上がりになっている。 「へ~絵の具と一緒に香料を混ぜたりするんだね」  興味津々の目で俺の方を見た時、二つに結われた髪が揺れた。  香料は何十種類もあり、このブラッディのようなのもあれば当然、花の香りがするようなものもある。  香料を入れてある絵は一般的に少なく、入れる人は稀で(変わり者が多い)、花のような良い香りより少し不思議な香りがするやつの方が売れているそうだ。 「うん。より一層雰囲気を出すために入れるんだって。俺の知り合いに、無駄に香料を入れる奴がいるんだけど、そいつが言ってた」  ヤクは香料を入れるのが好きで、無駄に入れる。  この前は紅茶の絵に、タップリと紅茶の香りがするやつを入れてた。  そのせいで市場の一角が紅茶臭くなったんだ。
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