蝉の声

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「…ゼルくんは絵が凄く好きなんだね。絵の事について話てる時が一番、嬉しそうだよ?」  彼女は笑って、会場に設けられた休憩場でそう言った。  俺らは今、休憩場で紅茶を飲みながらベンチに座っている。 「そうなのかな~。でもまぁ、気付いたらなにかスケッチしてる事はあるなぁ」  彼女の横顔を見た。  俯いた表情はやはり綺麗で、アリアスの胸像を思い出す。  そうは言っても、はっきりと覚えてないけどね。 「スケッチか~ソラは美術苦手なの。と、言うより、お父さん以外は皆苦手なんだけどね~」  お母さんなんて絵心の欠片も持ち合わせてないのよ~と、言って笑っている。  確かにあの母親に絵心はなさそうな気がするよ。  きっと何が描いてあるのか分からないようなのを描くんだろうな。  …それを、想像したら少し笑えた。 「でも絵を見るのは好きなんだよね?」
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