第1章

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人は顔じゃないって言うけど現実は違う。 やはり美人は得をする。 どの会社を訪れてもまず受付の人の態度が違う…と思う。 笙さんを見る女性の目は年齢を問わず“まあっ…”って感じになって光を増す。 私の心が卑屈になってるせいなのかな。 男の人は普通に見えるけどそれでも笙さんがいつも通り真摯に的確に説明を終えると“こいつなかなかって”表情をする。 これは見た目とは関係ないのかもしれないが“意外”と受け取られてるのはわかる。 年齢より若く見えるっていうのもあるのかも。 この日最後に訪問した会社の部長さんは「ちょっと長くなるかも」と笙さんから聞いていた通り、私の存在に気づかない程笙さんに話しかけ、どうにか飲み会の口実を作ろうとしていた。 余程気に入られているんだろうけど、ちょっと怖いくらいで笙さんも社交辞令を苦笑いで返していた。 車に戻るなり笙さんが運転席の背に体を預け、大きなため息をついた。 「お疲れ様でした」 ほとんど横で聞いていただけの私は申し訳なくてそう声を掛けた。 笙さんは項垂れるようにこちらを向いて、艶っぽい目で悪戯っぽくにやりと笑って、   「じゃあご褒美ね」 そう言うと私の手を握った。 彼の目に見とれていたせいで私はしばらくそのままで。 笙さんが軽く引き寄せようとして我に返った。   「だ、だめです」 真っ赤になりながら自分の手を笙さんの手から引き抜いた。 “やばい、完全に魅入られてたわ、私” そんな私を見て彼は、ははっと声を上げて笑っている。   「今日のパートナーが君でよかった。ちょっと疲れが取れたよ」 そう言って車を出した。   「私をからかって疲れが取れるんならいいですよ」 まだ熱い頬の私は自棄気味に答えるしかなかった。
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