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直樹はすぐ後ろに追いついてきた。
「お前の事待ってたら、彼女が飲みに行こうって話しかけてきて。断ってたんだよ」
私が不機嫌でいることには気づいたようだが、見当違いの言い訳をするので私の言葉も強くなる。
「それはわかったわよ。だから助けたんでしょ」
「じゃあ何怒ってんの?」
私はその言葉にイラッとして、立ち止って振り向いた。
直樹が驚いたように見下ろしている。
「なぜ課長にあんなこと言ったのよ。上司に報告とか、まだ早いでしょ」
「そのことか…。まだ、怒ってたの?」
“こういうとこあるんだよね、直樹~”
私の気持ちには全く気付いていない。
しかもその言い方がさらにイラッとさせる。
「結婚って簡単に言うけど何も始まってないんだからね」
そうプロポーズだってされてない…ない事にって、言ったのは直樹だし。
「そうだな。その通りだったな」
しばらくの沈黙があって、意外にも直樹からそんな言葉がこぼれてきた。
そして真顔になった。
めったに見ないそんな表情に私はちょっと怯んでしまう。
「確かに早まったかもしれない。でも課長には言っておきたかったんだ。俺がお前に本気だって事」
「直樹…」
今朝の不安げな表情とダブって見えた。
“もしかして…”
「心配してたの?課長とのこと。それで駐車場で待ちぶせまでして?」
「ごめん。今朝お前はああ言ってたけど、不安だったんだ。なんせ高宮課長だし、一日一緒にいたらお前の気持ちだって揺れるかもしれないって。俺、正直あの人には勝てる気しないし」
そう言って少し情けない顔をした。
「馬鹿」
そう言いながら、直樹が愛しかった。
嫌いなとこもあるけど、結局私は直樹のこういう素直なところが憎めなくて許してしまう。
「課長は確かにかっこよくて性格もよくて大人で完璧だから憧れてたけど。それは“好き”とは違ってたの」
「ほんとに?」
直樹はまだ半分疑ってるようだけど、ここでこれ以上は話したくない。
「帰りましょ。せっかくだしなんか食べに行こうよ」
「あーそうだった。俺、マジ腹減ってたし」
いつもの直樹が私の隣に並んだ。
なんだかそれだけでほっとした。
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