第1章

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居間に入ると父が新聞を読んでいた。いつもの光景だけどなんとなくよそよそしさが漂っている。 大体、表の騒がしさが気にならないのか?   「父さん、ただいま」   「うん。おかえり」 直樹がおずおずと入ってきて   「お邪魔します。おじさん、ご無沙汰してます」 と頭を下げた。 父は新聞を畳み、直樹を見た。   「直樹君、よく来たね。まあ、座りなさい」 そう言った父は笑うでもなく不機嫌と言う感じでもなく、表情が読み取れない。 母は台所でバタバタとお茶の用意をしていた。 私がそれを手伝いに行くと   「あの人、ああ見えて朝からずっとそわそわしてたのよ」 と小声で言って笑った。 母と私がお茶とケーキを持って居間に戻ると、二人は仕事の話をしていた様だった。 ただ、二人とも表情が硬いし。   「直樹君ほんとにバラの事覚えててくれてありがとね」 母が重い空気を変えるように話し始めた。   「でも、まさかほんとにこの日が来るなんてね。感激だわ」 手を胸の前に組んでまるで夢見る乙女?だ。   「ねえ、何のことなの?何でバラ?」   「その話はまた改めて…」 直樹が私の話を打ち切った。 そして姿勢を正した。 私も両親もつられて背筋を正す。   「今日はお父さんとお母さんに優羽さんと結婚を前提にお付き合いさせていただくてご挨拶に来ました。どうかお許しください」 そう言って深々と頭を下げるので、私も横で焦って頭を下げる。  “結婚前提…なんだ” 頭の中で直樹のセリフを繰り返してドキドキした。 …しかし沈黙が長い。 ちょっとだけ頭を上げて二人をチラ見する。 母は目頭をティッシュで押さえ、父は…怒ってる?みたいに見える。 まさか反対?殴る? 「顔を上げなさい」 父が淡々と言った。 直樹が膝に上に置いた手をギュッと握ったのが見えた。   「直樹君。中学生の時から君の事は知っているし、立派な大人として優羽の結婚相手に申し分ない人物だと思う。優羽の事をどう思っていたかも私なりにわかっていたが、ずっと納得できなかった。しかし私が言える立場でないと思って言わなかったんだ。なぜ、もっと早くに決心してくれなかったんだね?」   「それは…」 直樹が俯いた。
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