第1章

20/22
前へ
/22ページ
次へ
「あれはね。あんたたちが大学の時、転勤になってうちが引っ越したでしょ。それまで直樹くんちのバラを私がお世話してたじゃない?」 思い出話を始めた母さんの目がきらきらして私に同意を促す。   「そ、そう?だったね?」 ホントは覚えてないが、そう返事をした。   「引越しの時にね。たまたま直樹君が帰って来てて、手伝ってくれたのよ。その時お庭で直樹君に『もうバラの花が見れないの残念だわ。もし直樹君と優羽が結婚したら縁が出来てまた来れるのにね』って話したのよ。そしたら直樹君が『その時はおばさんにバラの花を持って挨拶に行きますよ』って言ってくれて…きゃあ!素敵よね」   “大学生のセリフとは思えないな。ホストレベルだな” と秘密にされていたので悪い風にしか受け取れない。   「それがさっきのバラの花束なのね」 私はため息をついた。 なんか…気持ちの整理がつかない。 この人たち、もう何年も私の知らないとこで繋がってたんだ。 しかも私はなぜ気づかなかったんだろう。   「優羽」 それまでずっと黙っていたお父さんが口を開いた。   「直樹君はお前をずっと大切に思ってくれていた。だからこそ私たちも黙って見守ってたんだ」   「お父さん、ありがとうございます」 直樹がお父さんに頭を下げた。   「僕がいままで決心できなかったのは、優羽が僕の母との約束を守ってくれていたからで、もうこれ以上優羽を束縛したくないと思っていたからです。僕以外の人を好きになって幸せならそれでもいいと思ってました。でもやっぱりもう我慢できなくて、正直不安でしたが打ち明けました。優羽も同じ気持ちだとわかってここへ来る決心がつきました。優羽を思う気持ちは誰にも負けません。お嬢さんを僕に下さい」   「そうだな。やっぱり君以外はいないだろうな。よろしく頼むよ」 お父さんが直樹に手を差し出した。 直樹はそれを両手でしっかり握った。   「まあ、よかったわね。もうすぐお寿司が届くからみんなで食べましょう。お式の話はそれからでいいわよね」 母は涙を拭きながらいそいそと席を立って台所に行った。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

327人が本棚に入れています
本棚に追加