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「あれはね。あんたたちが大学の時、転勤になってうちが引っ越したでしょ。それまで直樹くんちのバラを私がお世話してたじゃない?」
思い出話を始めた母さんの目がきらきらして私に同意を促す。
「そ、そう?だったね?」
ホントは覚えてないが、そう返事をした。
「引越しの時にね。たまたま直樹君が帰って来てて、手伝ってくれたのよ。その時お庭で直樹君に『もうバラの花が見れないの残念だわ。もし直樹君と優羽が結婚したら縁が出来てまた来れるのにね』って話したのよ。そしたら直樹君が『その時はおばさんにバラの花を持って挨拶に行きますよ』って言ってくれて…きゃあ!素敵よね」
“大学生のセリフとは思えないな。ホストレベルだな”
と秘密にされていたので悪い風にしか受け取れない。
「それがさっきのバラの花束なのね」
私はため息をついた。
なんか…気持ちの整理がつかない。
この人たち、もう何年も私の知らないとこで繋がってたんだ。
しかも私はなぜ気づかなかったんだろう。
「優羽」
それまでずっと黙っていたお父さんが口を開いた。
「直樹君はお前をずっと大切に思ってくれていた。だからこそ私たちも黙って見守ってたんだ」
「お父さん、ありがとうございます」
直樹がお父さんに頭を下げた。
「僕がいままで決心できなかったのは、優羽が僕の母との約束を守ってくれていたからで、もうこれ以上優羽を束縛したくないと思っていたからです。僕以外の人を好きになって幸せならそれでもいいと思ってました。でもやっぱりもう我慢できなくて、正直不安でしたが打ち明けました。優羽も同じ気持ちだとわかってここへ来る決心がつきました。優羽を思う気持ちは誰にも負けません。お嬢さんを僕に下さい」
「そうだな。やっぱり君以外はいないだろうな。よろしく頼むよ」
お父さんが直樹に手を差し出した。
直樹はそれを両手でしっかり握った。
「まあ、よかったわね。もうすぐお寿司が届くからみんなで食べましょう。お式の話はそれからでいいわよね」
母は涙を拭きながらいそいそと席を立って台所に行った。
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