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「そこは見かけと同じで、でいいじゃないですか」
そして私はわざとらしく頬をふくらまして見せる瑞希ちゃんに謝りたい気持ちをこらえていた。
そんなことをすれば、きっと真一と同じことをすることになるから。
彼女の想いを知っていて、直樹を好きならこの苦々しさは私が抱えなければならない物なのだ。
「ところでかかりちょーいつ頃になるんですか?」
「えっ?何?」
「結婚式ですよ。ほら、ドレス買おうかなとか思ってるんで早めに教えてほしいんですよね」
「け、結婚式?な、なんで?」
「何よ、もう決まってんの?」
私と伊知子が同時に慌てた。
「松阪さんに『結婚されるんですよね?』って聞いたら、『もちろんそのつもりだ』って言ってましたよ。だから近々なのかと思って」
「優羽に先越されるとは思わなかったわ」
両手で頬を覆い、伊知子が勝手に落ち込み始める。
「ま、待って、違うよ。伊知子。直樹は何をそんなこと勝手に言ってんのかしら?」
「でもプロポーズされたんでしょ?」
瑞希ちゃんは当たり前のように言っている。
でも、あの時“今のは無し”とか言ってたし。
そう言えばなんで“無し”にしたんだろ?
そのまま聞くのを忘れてた。
「ねえ、優羽、されたの?プロポーズ?」
伊知子に急かされてもワタシ的にはこう答えるしかない。
「されてないよ。ぜんぜんされてない」
私の返事の仕方が変だったのに二人とも気づいて、空気が固まった。
「お待ちどうさまです」
タイミングよく焼き鳥の盛り合わせが届く。
「食べようよ」
私はまだ“?”の消えない二人に言った。
私だってわからないことを他人に話せない。
それ以上の追及を何とかかわし、二人への報告はどうにか終わった。
帰りがけに店の前で伊知子が急に手を握って、
「幸せになりなよ。おめでとう」
なんて言うから、なぜか酔っぱらい女三人で泣いてしまった。
女同士ってやっぱりサイコー。
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