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「直樹、大好きよ」
何度だって言いたい。
もうバカでも年甲斐もなくでも何でもいいやと言う気になる。
「なあ、泊まってけよ」
「平日だよ。無理…」
「着替え取って来いよ。合鍵あるんだから
どっちの家でも大差ないだろ。同じ屋根の下なんだから」
まあ、理屈的には同じ屋根の下の部屋って事なんだけど。
「じゃあさ、俺がお前の部屋に行くよ。うん、そうしよ。朝、着替えに帰って来ればいいし。そっか、俺の方が簡単だったな」
私の返事を待たずに鍵と携帯だけ持って電気を消し、私の背中を押して部屋の外に出た。
一人暮らしを始めた頃は淋しくて何かと家に電話していた。
料理の仕方はもちろん網戸の掃除の方法とかいちいち母に聞いて、今日あったことなんかも報告していた。
それが年数を重ねる度に話も減って、電話の回数も自然と減った。
いつの間にか一人の時間、一人のペースが出来ていた。
元彼の真一も部屋に居座るタイプじゃなかったし、思えば彼より今ソファーでテレビ見ている直樹の方がこの部屋での滞在時間が長い。
「お前、髪はしっかり乾かせって」
お茶を入れて隣に座ったら、また、タオルをとりあげられた。
くしゃくしゃに拭かれながら、
「うちの親でもこんなに煩くないよ」
と文句を言ってみた。
「おばさんたちはお前に甘いからな。っていうか言う事聞かねえし。呆れてたな」
確かにいろいろやらかしても、もはや怒る事さえ諦めてた感はある。
「でもさ、あの文化祭の時だけはおじさんが怖かった」
「頬ぶたれたわ。乙女なのに」
あの事件の時、事情を話しに連れて行かれた警察へ迎えに来た父に怒鳴られて初めてぶたれた。
「無茶するんじゃない、って怒鳴ったろ。でも、お前が俺を庇ったこと知って、謝る俺を怒ったような悲しいような目で見たのが忘れられない」
「そう?だった?」
「ああ、こんな男のためにって気持ちがあったんだろうな」
「まさか」
父は無口だけど人当たりがよくて、典型的ないい人って感じだ。
今まで彼氏の話とかしても無関心でそんな感情を持つなんて想像できなかった。
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