第1章

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「それじゃ二人でいる意味ないじゃん」 「起きてたの?」   「寝れるわけないでしょ」 そう言って抱きしめるから背中に直樹の胸の温もりを感じて心地いい。   「もしかして、眠い?」   「うん」   「…ったくムードのない奴」   「直樹が気持ちいい…から…」 恐るべき直樹の睡眠効果だ。 もう意識が半分遠のいていた。   「まあ、いいか。じゃあ、おやすみ」   「ん」 直樹には悪いけど、こんな蕩けるような幸せな瞬間があるって事に思いっきり浸って眠りについた。   携帯のアラームが鳴って胸元にチクリと痛みを感じる。 虫でも…と思って目を開けるとそこには肘をついて笑って見ている直樹がいた。   「おはよ」   「何?珍しいね。私より早いなんて…」   「一旦部屋に戻らないと行けないから、じゃあな」 そう言ってベッドを降りて驚くほどあっさり部屋を出て行った。   「こんなものなのかな?」 すぐに会うことになるのだけど、ドアの閉まる音に一抹の淋しさを覚える…… というのは洗面所の鏡を見た瞬間にぶっ飛んだ。   「なんじゃこりゃ~~~」 そこに映った私のパジャマの首元にキスマークが付けられていたのだ。 ご丁寧に3か所も。   「あいつー」 起き抜けの笑顔の意味がわかって、余計腹が立ってくる。 しかし、こんな事になってても目が覚めない私って、どうなの? 自分にもあきれて不安になった。 とりあえず首元の隠れるブラウスを着て何とか誤魔化し、支度を整え出かけた。 私の怒りを察してか今日はロビーに姿はなく、電車に乗り込むといつもの位置に直樹が笑って待っていた。   「遅いね。いつもにも増して」 なぜかわざとらしい余裕で憎まれ口を叩く。 そっちがその気なら…。 私は無視をして黙って窓の外を見た。 ちらちら覗き込むような視線を送ってくる直樹に気づいたけど、やはり無視して放置。   「怒ってる?」 “あたりまえだろう”と思いつつ、聞こえないフリをするけど、視界の端にこんな時いつも見せる弱った直樹の顔が見えて顔がゆるんでしまう。
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