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その時、ふいに電車が大きく揺れて、私はバランスを崩し、前のめりになった。とっさに腕を掴まれ、直樹の胸が私を抱きとめた。
「あ、ありがと」
お礼を言うと、直樹が耳元で
「こっちこそごめん。寝顔見てたらつい…誰にも取られたくなくて…」
そこまで聞いて私は赤面しながら、手を伸ばして直樹の口を塞いだ。
「何言ってんの?朝からばっかじゃないの?」
小声で思わずそう言うと、手の下で直樹の唇が、
「馬鹿じゃないし」
と動いて、くすぐったい。
仕方ないので手を離したが、直樹はいたって真面目な顔をして私を覗き込んでいる。
「近いし」
私は直樹の胸を押し返した。
「今日、課長と一緒に外回りだろ」
そうつぶやいた直樹の大きな目が自信無げに揺れて見えた。
“それで…か”
直樹にはまだ笙さんとのことをきちんと話していなかった。
「課長とはもうなんでもないから気にしないで。今晩ちゃんと話すわ」
とは言ったものの今日は笙さんと取り引き先回り。
気にしてなかったけど二人きりで車で移動することになる。
1か月前ならウキウキしてたはずなのに今は全く違ってる。
「かかりちょー今日はイケメン同伴ですね」
私の気持ちを察してか瑞希ちゃんが声を掛けてきた。
「まあ…ね」
上手く返せない私はやはり顔に出てたのか、
「揺らいじゃダメですよ」
釘を刺さすように瑞希ちゃんの大きな目がきらりと光った。
揺らぎはしないけど、でも、なんか見透かされてる?
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