第1章

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その時、ふいに電車が大きく揺れて、私はバランスを崩し、前のめりになった。とっさに腕を掴まれ、直樹の胸が私を抱きとめた。   「あ、ありがと」 お礼を言うと、直樹が耳元で   「こっちこそごめん。寝顔見てたらつい…誰にも取られたくなくて…」 そこまで聞いて私は赤面しながら、手を伸ばして直樹の口を塞いだ。   「何言ってんの?朝からばっかじゃないの?」 小声で思わずそう言うと、手の下で直樹の唇が、   「馬鹿じゃないし」 と動いて、くすぐったい。 仕方ないので手を離したが、直樹はいたって真面目な顔をして私を覗き込んでいる。   「近いし」 私は直樹の胸を押し返した。   「今日、課長と一緒に外回りだろ」 そうつぶやいた直樹の大きな目が自信無げに揺れて見えた。 “それで…か” 直樹にはまだ笙さんとのことをきちんと話していなかった。   「課長とはもうなんでもないから気にしないで。今晩ちゃんと話すわ」   とは言ったものの今日は笙さんと取り引き先回り。 気にしてなかったけど二人きりで車で移動することになる。 1か月前ならウキウキしてたはずなのに今は全く違ってる。   「かかりちょー今日はイケメン同伴ですね」 私の気持ちを察してか瑞希ちゃんが声を掛けてきた。   「まあ…ね」 上手く返せない私はやはり顔に出てたのか、   「揺らいじゃダメですよ」 釘を刺さすように瑞希ちゃんの大きな目がきらりと光った。 揺らぎはしないけど、でも、なんか見透かされてる?
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