第二章 二人の男

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「若気の至りやなあ。まあ、しょうがないわ。誰も生きとることで精いっぱいで、死んだときのことを考えてないからな。今回の一件で、性根にはいったやろ。いつ死んでもええように準備して生きとかなあかんちゅうことや」 「はい、しっかりと性根にはいりました。次、死ぬときは、ちゃんと準備してから死にたいと思います」 「心配せんでも、もう死ぬことはないで。ジゴクで一生暮らすんや。それで、お前は、何でジゴクへ来たんや」 「それを話さないといけないのですか」 「別にしゃべらんでもええけど、どうせ閻魔さまの前に座らされて、洗いざらいの悪事がばれたんやさかい、その時、言いたりんこともあったやろから、もういっぺん白状してみい。ちっとは胸がすきっとするで。どうせジゴクの中へはいったら、口では言えん辛い目にあうんやから、しゃべるんやったら今のうちや」 「それなら、話をさせてもらいます」と直立不動になるサラリーマン。 「そんなに、気合をはめんでもええで」 「実は、見たとおり私はある商事会社に勤めていました。仕事がけっこう忙しく、営業の実績も順調に上げていたのですが、ある日、つい、ギャンブルに手を出して、回収した売上げ金の一部を使い込んでしまったのです」 「ようある話やなあ」 「使い込んだお金を穴埋めしようと、つい、サラリーマン金融からお金を借りたのです」 「また、ようある話しや」 「それで、その借金に知らない間に利子がついて返す金が倍増になってしまい、その借金を返そうと、また別のサラリーマン金融からお金を借りたのです」 「また、また、ようある話や」 「後は、ご存知の通り、あちらこちらのサラリーマン金融から金を借り続けまして、借金が雪だるまどころか、身長四十メートルもある怪獣ぐらいに増え、正義の味方のウルトラマンも対抗できず、当然、返す段取りもつかなくなりました。会社にも、自宅にも、こわーい声の鬼のような人からの電話が、昼となく夜となく度々入るようになりました」
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