第二章 二人の男

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「そのまま公園のベンチに座りじっとしていました。太陽が左のほほを照らし、顔の正面を照らし、左のほほを照らしました。それが何回か繰り返されているうちに、公園でそのまま住んでいたのに気がつきました」 「気がつくんが遅すぎるわ。なんや、ようわかったような、わからんような話やなあ。それで、なんでジゴクへ来たんや。公園に不法滞在ぐらいの理由で、ジゴクには来んやろ。ほかになんか悪いことしとんとちゃうのか」 「私もよくわからないのですが、思いつくとしたら、ハトにエサをやりにくる人がいて、あんまりお腹がすいていましたので、ハトに石を投げて追い散らし、そのエサを奪って食べたことでしょうか」 「なんや、みみっちい話やなあ」 「そうです。ハトのエサは豆粒ほどの大きさなので手で拾うのが大変でした。そのあたりの木の枝を折り、箸にして口に放り込んだのを今でもはっきりと覚えています」 「そういう意味やないがな」 「私に追い払われたハトがうらめしそうに目を丸くしてこっちを見つめていました。ポーポーポッポッポと」 「ハトが豆鉄砲かいな」 「その日の晩、この頃に珍しく雪が降り始めました。今年の初雪でした。寒さから逃れようと公衆便所の軒先に体を埋め、震える手で100円ライターをつけ、ささやかながら暖をとっていました。ライターの炎をつけるたびに、昔の家族との団欒のようすが浮かんできました。鍋をつついている4人の姿。そう、この時期には、家族揃ってよく鍋をしたものです。私が好きなのは、寄せ鍋です。豚肉に鶏肉、えびにあさり、はくさいと大根、豆腐と春菊、給料日には蟹がはいるんです。それらを箸でつかみ、もちろん木の枝の箸じゃないですよ、器にとり、七味をかける。この七味はできればゆず入りがいいですね。本来なら、寄せ鍋の具が主役であるはずなのに、この七味が脇役から躍り出て主役となり、七味を味わうために、具を食べている、そんな気がします。  
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