第二章 二人の男

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「目を開けると、公園のベンチがどんどんと小さく見えだし、確かに自分は空に浮かんでいるではありませんか。さっきまで自分がいたはずの公衆便所を見ると、もうひとりの自分がダンボールの部屋の中で、ひざを抱えたまま、うずくまっている姿がみえました。ああ、自分の魂が、このまま、空に召されるのだと感じたのです」 「ここは空やないで、ジゴクやで。このおっさん、自分の話に酔ってまっせ。満員電車からずっと酔い続けとんと違いまっか、なあ、青鬼どん」 「ほんまやなあ、赤鬼どん。話を聞いたら、泣けるような、泣けんような、笑えるような、笑えんような話や。それにしてもお前たちふたりとも家族があったんやろ。なんでこないなことになったんや。今さら言うても遅いか。今、家族はどうなっとんのや」 「私は、こわーい人たちからの電話がかかりだしてから、迷惑がかからんように妻と離婚しました。子供は妻の元にいます」  胸を張ってしゃべるサラリーマン。 「迷惑かからんように言うけど、それまで十分迷惑かけとるがな」 「すいません」  背を丸め、うなだれるサラリーマン。 「わたしは、公園に住みだしてから家族とは何十年も音信不通ですなあ。生きてるいるのか、死んでいるのかわかりません。今、家族は、ライターの火の中にいますよ」  遠い目をして返事をする放浪者。 「あんたが死んどんのは、間違いないで」 「そうですね」  サラリーマン同様にうなだれる放浪者。 「まあ、そんなことどうでもええわ。それより、青鬼どん、さっきの話ですけど」 「なんや、さっきの話やいうて」 「いっぺん、ジゴクの中を見てみたいという話でっせ」 「そりゃ、見てみたいけど、この持ち場を離れるわけにはいかんがな。もし、他の鬼にでも見つかったら、閻魔さまにどやされるぜ。どやされるだけならええけど、この仕事、首になってしまうで」
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