第1章

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「それは、わたしら赤鬼一族も一緒でっせ。先祖代々、門番の仕事を仰せつかって、毎日一所懸命、ジゴクの門を開けたりー、閉めたりー、閉めたりー、開けたりー、同じことの繰り返しばかりでっせ。いや、いや、何もこの仕事に不平不満があるわけではありまへんで。ジゴクに落ちてきた人間どもをジゴクの中に放り込むんは、それはそれで大事な仕事やと思うし、気心の知れ、昔馴染みの青鬼どんとこうして一緒に門番の仕事できることは楽しいことや。そやけど、こうも毎日、毎日、同じことの繰り返しやとなんぼわしら鬼かて、ちょっとはいろんなこと考えますわ」 「そりゃ、そうや。わしも門番の仕事がいややちゅうわけではないけど、せっかく鬼として生まれてきた以上、全部とは言わんがせめて半分、いや十分の一、いや百分の一ぐらいジゴクのことを知りたいんは、鬼の情ちゅうもんや。わしらだけでなく、このジゴクで働く鬼たちも同じこと考えとんのと違うか」 「いや、いや、そんなこと考えとんは、わたしらだけやと思いまっせ、青鬼どん。みんな、毎日の生活に追い回されて、そんなこと考える暇がないんか、それとも考えることをやめてしまったんか、元から思いもつかんのか、そのうちのどれかでっしゃろ。足元ばっかり見て、遠い彼方の大事なことまで心が回らんのと違いまっか」 「そうやなあ、心が回らんと目が回ってジゴクに落ちてくるんかいな」 「うまいこと言いますけど、わたしらは、すでにジゴクにおりまっせ」  その時、ピー、ピー、ピーという笛の音とともに、おっちら、こっちらという掛け声に合わせて、電車ごっこの一団がやってきた。 「ここはジゴクの一丁目、一丁目。さあ、みんな着きましたでちゅよ。ここが到着駅のジゴクの門でちゅ。運転手は僕だ、乗客はみんな。みんなはここで降りまちゅよ。さあさあ、降りてくださいね。急いで、降りて、怪我をしてはいけませんから、ゆっくりでいいでちゅよ」  運転手役の鬼が振り向いて、着いてきた後ろの人間たちに向かって声を掛けている。しかし、一行が到着したにも関わらず、相変わらず話を続けている赤鬼と青鬼。たまりかねた運転手の鬼が大声をあげる。
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