第1章

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「何、さっきから話してんでちゅか。いや、何話してんのや、赤鬼どんに、青鬼どん。さっさと、この門を開けてくだちゃい。いやいや、開けてえなあ。ほら、今日も、閻魔さまの命令で、百人もの人間どもを連れてきたんや、まさに一個連隊やで」 「これは、これは黄鬼どんやおまへんか。気いつかなんだがな。すんまへんな。こりゃまた、今回も、ぎょうさんのジゴク行きの人間を連れてきましたなあ。それにしても、ええ大人が子供の電車ごっこかいな。しゃべり方まで赤ちゃん言葉になってまっせ。電車もそうやけど、あんたの船、こんなにたくさんの人間が乗りますのかいな」 「乗るも乗らんも、閻魔さまの命令やさかい、しょうがないやおまへんか。一人でもこの世の岸に残したらあかんのや。待っとる奴は、みんな、船に押しこんむんや。三途の川を無事渡ったら、そのまま陸に引きあげて、閻魔さまの前に座らし、閻魔さまのご裁定の後、極楽へ行く奴は桃鬼どんが道案内して、ジゴクに行く奴はわしが引き連れてきたんや。それにこれは子供の遊びやおまへんで。生きとったとき、ろくなことしとらんやった奴らやから、途中で逃げ出したりせんように、催眠術で子供の頃に戻しとんのや。この電車から降りた途端、ちゃんと元の大人に戻るんや。ほんまは、戻らんほうがええのかも知れんけどな。今から、ジゴクの怖いお仕置きが待ってるやさかい。まあ、それまでは、わしも電車の運転手や。こいつらに合わせて、赤ちゃん言葉しゃべってんねん。サービス、サービス。わしは、サービスのプロやからな。こら、どこへ行っとるんや、そこのガキ、いや、そこの坊ちゃん、そっちへ降りたらだめ、だめでちゅよ。ほんま、こいつら、ほっといたら自分勝手な行動ばっかりや。やっぱり、子供の頃に戻しても、言うこと聞かんがな。生まれたときから、ジゴク行きの性格なんやろか。そんなんやったら、元々、ジゴクで生まれたらよかったんや。わしがいちいちここまで連れて込んでもよかったのに。それにしても、ああ、しんど。たまには、わしも、桃鬼どんみたいに極楽へ行ってみたいわ。あっちは、たったの二、三人ぽっちやで。それに較べてわし一人で、こんだけぎょうさんの人間をここまで連れてこなあかんのや。ジゴクも最近赤字続きやさかい、人件費節約で、わし一人のワンマン電車になってしもうたんや」
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