プロローグ

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束の現金を見せられて動揺しない人間はいない。動揺しないのは〔束の数〕が足らないだけだ。 泥谷砂男は小型のアタッシュケースを開き、ゆっくりと白井の方へ押しやった。 「手付金の二千万です。ご確認下さい」 「二千……万ですか」 白井博史の額には大粒の汗が浮かび始めた。 「白井社長、残りの三千万は契約が済み次第、小切手でお支払いします。それとも〔現金〕がよろしいですか?」 「こ、いや、げ、現金が」 白井の視線は開かれたアタッシュケースから動かない。 この程度の人間には小型のアタッシュケースで十分。要はケースの中身がぎっしりと詰まっているかどうか。大金に見せかける簡単なトリックにすぎない。 白井の汗と動かない視線。 結論を聞くまでもない。 泥谷は鞄から合意書を取り出し、アタッシュケースの横にスッと差し出した。
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