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「ふーん……一夜限りの過ちねぇ…」
岸谷はくるくると自分のグラスを回し、俯き加減で低く呟いた。
「面白くねぇなぁ…」
「え?」
聞き取れずに聞き返す。
カタンとグラスを置き、岸谷は私を見据えた。
「つまんねーよ」
「は?」
今度ははっきりと聞こえたが、またも疑問符を返す。
「何、勝手に元に戻ってるんだ?」
「戻ってる?」
「そうだよ。あの夜、俺は約束通り、お前を壊してやっただろ?」
「--ッ!」
切れ長な瞳が私を真っ直ぐに捕えている。
心臓にぐっと詰まるような感覚が走る。
息苦しい。
あの夜を思い出すと、ダメ。
「やめて…!」
堪らず、切羽詰まった声が出た。
顔を叛け、目をギュッと瞑り、手を握り締めた。
感情の昂りを隠すために。
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