2190人が本棚に入れています
本棚に追加
岸谷は黙ったまま、私をじっと見上げていた。
彼に見つめられるとすべてを見透かされそうで、視線を逸らす。
「帰る」
これ以上、ここにいたくない。
私は立ち上がった。
一口しか飲まなかったスクリュードライバーはそのまま。
勿体ないけれど、一気飲みはしなかった。
会計を済ませている間も岸谷は何のアクションを起こさず、あの夜とは違い、私はすんなりと店を出ることが出来た。
駅へと歩きながら、ホッとしたような寂しいような、複雑な心境に苛まれる。
「あぁ~あ…何、やってんだか…ハアー…」
何ともなしに呟いた独り言。
見上げれば、今日は満月。
満ち満ちた月は、私には眩し過ぎる。
どうしてだろう…
何で、こんなに、何かが足りないと感じるんだろう…
・
最初のコメントを投稿しよう!