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岸谷の言う通り、あの夜を帳消しに出来ない。
私がいくら忘れたと言っても、この男が目の前に現れる限り。
そして、これから3ヶ月。
私がどんなに嫌だと思っても、岸谷と仕事をしなければならない。
全部、全部、わかっている。
消せない過去と避けられない現実。
私はそこから絶対に逃げ出すことが出来ないのだ。
「でも、約束は約束よ。仕事以外での接点は絶対にNGだから」
「わかっている」
仕事が私を守ってくれる防護壁。それだけが頼りだ。
しかし、岸谷は、まるで射程距離を図っている動物のように私を見据えて。
「それでも、俺はお前を壊してみせるよ」
瞬間、身体の奥が疼く。
切れ長の冷めた瞳。
甘く低い声。
妖艶な微笑み。
支配者を認識すると、私の中の何かがざわめく。
忘れたくても忘れられない。
本能に刻み込まれた、あの夜の記憶。
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