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「…すみません。じゃあ、今日はこれで上がらせて貰います」
課長の言葉に甘えて、私はそそくさと机の上を片付け始めた。
なんだか、課長の傍にいるのが居た堪れない。
さっきの返事も流したまま応えることが出来てないのに、どこかで岸谷との関係は知られたくないと思っていて…
そして、待っている岸谷への焦り。
女としての狡さが、私の中で燻っている。
「課長、お疲れ様でした」
後ろめたさで視線を合わせることが出来ず、ペコリと会釈する。
「森園…」
呼び止められ、視線を合わさざるを得なくなる。
「返事は急がない。でも、考えてみてほしい」
課長は真っ直ぐ私を見据えてそう言うと、片手を上げ、別れの挨拶の仕草を示した。
「はい…」
狡い私は、か細い声で、それだけしか返すことが出来なかった。
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