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「すずちゃん?」
首を傾げて、私を覗き込む岸谷。
いつもの仕事モードなら眼鏡をかけているのに、今日の岸谷は眼鏡をかけていなくて、あの切れ長の瞳が直接、私を見ている。
そういえば、服もスーツではなく、ブラウンのダッフルコートとデニムにショートブーツ姿。
ああ…オフって言ってたよね…
「……ごめん。休みの日に…」
顔を下に向け、ポツリと呟く。
「すずちゃん」
「名前…やめて」
「すずちゃん…こっち向いて」
首を振って、嫌だと言う意思表示。
「すずちゃん…大丈夫だよ」
そう言って、岸谷はあの大きな手で、震える私の両手を包み込んだ。
「大丈夫」
ギュッと握られた手が温かい。
「大丈夫」
「うん…」
何度も繰り返される『大丈夫』に、次第に身体の緊張が解けてゆく。
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