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「やっぱり、岸谷は油断ならないなぁ。気を付けてくださいよ。係長」
「う、うん」
やっぱり、すでに手遅れとは言えない。
18時を回り、すでに空は真っ暗。冬の夜は早い。吐く息も白くなる。
二人でなんとなく夜空を見上げた。月は見えない。
「係長。これからもよろしくお願いしますね」
小野寺は優しい。優し過ぎる。
「うん。小野寺、ありがとう。私みたいな女を好きになってくれて」
小さな声でささやかなお礼を言う。
「ダメですよ。係長こそ、もう少し自信を持たなきゃ」
「え?」
「俺からもお説教です。どんな噂があろうと俺は知ってます。あなたは素敵な女性です」
そう言って、つぶらな瞳を三日月の形にして、優しく微笑む小野寺。
「ありがとう…」
嬉しくて泣きたい気分になるなんて、久しぶりだった。
でも、私はやっぱり泣けなかった。
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