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出来ない。
彼女に言えない。
私が妊娠の事を告げれば、彼女に待っているのは絶望だ。
それは、私が誰よりも解っている。
3年前の私よりも、さらに残酷な宣告。
そして、何より…
私には覚悟がない。
彼女のような、確固たる覚悟。
岸谷の人生を左右しても構わない、共に生きてゆくという、揺るがない想いが。
テーブルの下で、そっとお腹を撫でる。
ごめん。
ごめんね。
「池上さん…顔を上げてください」
穏やかに声を掛けると、お嬢様は零れる涙をそのままに、ゆっくりと顔を上げた。
私は小さく深呼吸して、笑顔を作る。
「岸谷さんと私は…付き合ってません。今後も…そのようなことはありません」
大丈夫。
自分に嘘つくのは慣れている。
「ホント…ですか?」
「はい」
不安そうな彼女に、はっきりと返事をした。
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