16 #2

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16 #2

久しぶりに包まれる大きな手の感触。 胸がきゅっとなる。 だから、振り解けなかった。 情けないことに。 「ここ、来たことある?」 岸谷が首を傾げて尋ねてきた。 連れてこられたのは、路地裏の奥にあった小さなお店。 大きな看板も何もなく、玄関脇に小さな表札で『葵』とある。 まるで大きなビルとビルの狭間にひっそりと隠れるように。 「こんな所にお店があったなんて……」 「ちょっと穴場っぽいだろ?」 私の反応に、岸谷は嬉しそうに微笑んだ。 最近の私達は硬い表情をしてばかりで、こんなくだけた二人の雰囲気は、本当に久しぶりな気がした。 カラカラと岸谷が引き戸を開けると 「いらっしゃい」 と小さなお婆ちゃんがカウンター越しから笑いかけてきた。 店内は狭く、席はカウンターのみの10席ほど。 すでに、4人分埋まっていた。 ・
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