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「なーんで、森園はお前なんかに騙されたかなぁ」
「騙されたって、人聞きの悪い」
ちょっと拗ねた顔をして、岸谷はジントニックを煽った。
「俺からしてみれば、自分の子を妊娠した女より他の女を取るなんて信じられん。結局、騙したみたいなもんだろ」
「………そうですね。そういうことになるんでしょうね」
岸谷は、ちょっと寂しそうに口の端だけで笑った。
俺がこうやって森園のことで責めると、こいつはいつもこんな顔をする。
それがまた俺は気に入らない。
こいつと森園にしかわからない何かを感じるから。
「それにしても……」
岸谷が垂れる前髪を掻き上げながら、フッと俺に笑いかける。
「荒木さんも諦めが悪いね」
「あ?」
「いつまで片思いしてるつもり?すずに」
「……」
マジでムカつく野郎だな。
今度は俺がギムレットをぐいと飲み上げる。
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