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「大体、すずって何だよ。すずって」
森園の下の名前を、当たり前の様に呼ぶこいつが、これまた気に入らない。
「あ。話、逸らした」
「逸らしてねーよ」
「逸らしてんじゃん」
「お前が先に逸らしたんだろーが」
肩を竦めて、やれやれという顔をする岸谷。
が、すぐに表情を変えた。
「でも……すずって、ホント名前で呼ばれるのを嫌がってたなぁ。いつも呼ぶなって怒ってた……フフッ…」
カランと氷の入ったグラスを回しながら、岸谷はふわりと優しく笑った。
今、ここにいない奴を、まるで目の前で慈しむように。
何だよ。それ。
お前だって、一緒じゃねーか。
「お前だって……いつまで片思いしてんだよ…」
印象的な切れ長の瞳が、あいつを探してる。
結局、俺達は彼女の名残りを求めて、こうやって女々しく飲んでいるんだ。
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