瞳の中で

4/6
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
いつもなら、ここで笑みを浮かべてなんでもないよ、と言ってのけるところだけど、今日は出来なかった。生徒と親しげな様子を見てしまったせいだろう、胸の中にモヤモヤとしたものが残る。上手く笑えない。 「…そんなこと言って、実は俺と会いたくなかったんじゃないのか?最近じゃなかなか会える時間が作れないし、忙しいから面倒だったんだろ」 「な…そんなことあるわけないだろ!俺いつも和希のこと…!」 声を荒げる啓太に身を乗り出して唇を塞いでやると肩がピクリと揺れた。 半開きになった唇からすかさず舌を入れ、ねっとり舌と舌を絡めると啓太から悩ましげな声が漏れる。 俺は助手席の背もたれを軽く倒しながら恋人の身体をまさぐった。するとさすがにまずいと思ったのか、顔を赤らめながら啓太は身体をよじる。 「だ…ダメ…ここじゃ誰かに見られ」 「大丈夫。こんな狭いとこに人なんか来ないって。…もし来たとしても、見せつけてやればいい。そしたら分かるだろう?啓太が誰のものなのか…狙ってくるやつもいなくなるし」 平然と言うと啓太は黙り込んだ。なにも言わず、ただじっと俺を見ている。その瞳の中に俺が映っているのが分かる。 「和希…」 不意に、唇に唇が触れた。 啓太からのキス。 最初は遠慮がちに触れていたものが段々と深くなり、俺の呼吸も荒くなる。 「ふ…ッ…けい、た…」 粘膜の絡む音が頭の中に響いて何も考えられなくなってきた。まさか啓太からこんなことをされるとは思っていなくて、余計動揺してしまう。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!