百合

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と、思ったけれど、藤林は離れてくれないお押し倒されたままだ、手を重ねて髪の毛がさらからと落ちてくる。 「藤林……?」 「初めて名前、呼んでくれた」 「ん、いや、そんなことより」 どいてくれないとは言えないで、ドキドキと心臓の鼓動がうるさい、名前を呼んだこともそうだけど、なんだか気恥ずかしくてたまらない。 「明津じゃなくてさ、亜衣って呼んでいい?」 と藤林が頬に手を当ててながら囁く、その表情は魅力的で綺麗だった。名前、あまり好きじゃないけれど、 「藤林と二人だけの時なら、いいよ」 「うん、亜衣、キスしていい?」 「え? あ、ちょっ…………んっ!!」 柔らかい唇が重なり合う、身体が触れ合う熱い、そして気持ちがいい。女の子同士なのにという背徳感というナイフがチクチクと刺してくる。自然と藤林の背中に手を回していた。 「おかしい……よね」 と言う。 「いいじゃない、そんなの気にしても無駄だしさ」 そっと私の胸を藤林が触れる、んっと声が漏れるが払いのけることはしない。 「今は、楽しもうよ。ね?」 「うん」 いつまでもこれが続けばいいと思った。 「私さ」 と藤林が言う。 「レズなんだよね」 「………………とんでもないことをさらりと言うね」 レズというのは、同性愛者だ。 「アハハ、そうだね。亜衣だから言うんだよ。誰にも言わないでね」 「言わないよ」 告げ口や陰口は嫌いだから、 「私もさ、変だってわかってるんだ。女の子なのに女の子が好きだなんて、亜衣のこと好きだなんて、本当は黙ってようと思ってたんだけどさ」 我慢できなかったよと笑う。我慢か、そう言うなら私も我慢してたのかもしれない。 「亜衣は私のこと好き? それとも嫌い? こんな私は嫌い?」 ズルいなぁと思う。そんなのはズルい。 「私には誰かを好きになるってよくわからないなぁ」 亜衣だなんて名前のせいでからかわれることが多かった。亜衣は愛とも読めるから両親は女の子らしい名前をと思ったのかもしれないけれど、同年代の心無い男の子達の遠慮のない野次は子供ながらに傷ついた。苗字は男の子っぽくて、名前は女の子っぽい。子供ながらの根拠のない悪戯かもしれないけれど、ナイフで突き刺すように痛んだ。痛くて、痛くて泣きたくなるくらい痛い。 「ここにて、ナイフが刺さってる感じかな、そこから流れ落ちた血が水蒸気みたいに抜け落ちていく感じかな」
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