16人が本棚に入れています
本棚に追加
´
田舎から、真弓に小荷物が届いた。
送り主は絵一の母親からだった。
手紙には、絵一との婚姻を促すような文面が随所に読み取れて、
真弓には、そんなおばさんの表情が、暖かく浮かび上がってくるのだった。
「おばさん、応援ありがとうね……。
でも、絵一とは一緒にはなれんよ。子も居るし………。
あたしの出る幕は何も無いとよ、おばさん。……悲しいけどね」
真弓は送られてきた沢庵を、
そう呟きながら半月に刻んで容器に詰め込んだ。
真弓は、絵一と大喧嘩をしたものの、
日が経てば憎しみも消え、さっぱりしたものだった。
唯、分かって貰えない悔しさだけが残るだけで、
同じ日に産まれて此の方、
互いはそうやって育って来たのだろうと、真弓は思うのだった。
「何かの縁で、
絵一とは同じ日に産まれて来たんじゃ。
あたしに出来ることは、もう祝ってあげることぐらいじゃよ」
▼
グググ~~ッ
と、右に大きくカーブすると、電車は飯田橋駅構内に進入して行った。
志津子は扉の側に寄って、
そこから眼に入る光景を、親しみを込めて眺めた。
(くる日もくる日も、ひたすら想い続けた町……。
絵一さんの息づく町……)
そう思うと、胸の鼓動は一層高鳴り、
志津子は、息苦しささえも覚えた。
「あのねぇお母さん、
この前のおばさ……、お姉さんが言ってたょ、あ、」
志津子は画一の手を引いて、飯田橋の駅に降り立った。
そうして、歩み出そうとした時に、
志津子の身体中が細かく震えて、歩けなくなってしまった。
「どうしたの、お母さん」
画一は心配そうに、母親を見上げた。
(あぁ…その昔、
わたしは確かにここで生きていたのよね。
この町の匂い、この町の佇まい、この町の彩り………
あぁ……何もかもがわたしを迎え入れてくれてる……
わたしは……
わたしは、確かにこの町の片隅で、
絵一さんと共に暮らして、生きていたのよねっ!)
´
最初のコメントを投稿しよう!