眞弓と志津子の再々会……

2/9
前へ
/26ページ
次へ
´  田舎から、真弓に小荷物が届いた。  送り主は絵一の母親からだった。  手紙には、絵一との婚姻を促すような文面が随所に読み取れて、 真弓には、そんなおばさんの表情が、暖かく浮かび上がってくるのだった。 「おばさん、応援ありがとうね……。 でも、絵一とは一緒にはなれんよ。子も居るし………。 あたしの出る幕は何も無いとよ、おばさん。……悲しいけどね」  真弓は送られてきた沢庵を、 そう呟きながら半月に刻んで容器に詰め込んだ。  真弓は、絵一と大喧嘩をしたものの、 日が経てば憎しみも消え、さっぱりしたものだった。  唯、分かって貰えない悔しさだけが残るだけで、 同じ日に産まれて此の方、 互いはそうやって育って来たのだろうと、真弓は思うのだった。 「何かの縁で、 絵一とは同じ日に産まれて来たんじゃ。 あたしに出来ることは、もう祝ってあげることぐらいじゃよ」      ▼   グググ~~ッ と、右に大きくカーブすると、電車は飯田橋駅構内に進入して行った。  志津子は扉の側に寄って、 そこから眼に入る光景を、親しみを込めて眺めた。 (くる日もくる日も、ひたすら想い続けた町……。 絵一さんの息づく町……)  そう思うと、胸の鼓動は一層高鳴り、 志津子は、息苦しささえも覚えた。 「あのねぇお母さん、 この前のおばさ……、お姉さんが言ってたょ、あ、」  志津子は画一の手を引いて、飯田橋の駅に降り立った。  そうして、歩み出そうとした時に、 志津子の身体中が細かく震えて、歩けなくなってしまった。 「どうしたの、お母さん」  画一は心配そうに、母親を見上げた。 (あぁ…その昔、 わたしは確かにここで生きていたのよね。 この町の匂い、この町の佇まい、この町の彩り……… あぁ……何もかもがわたしを迎え入れてくれてる…… わたしは…… わたしは、確かにこの町の片隅で、 絵一さんと共に暮らして、生きていたのよねっ!) ´
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加