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と、ぶつぶつ言いながら上体をを起こし、志津子は歩き始めた。
「お母さんってばぁ」
「ぅん……何てぇ画一?」
画一は、母親に引かれてまた顔を上げると、
「あのね…お母さん、
僕はお姉さんと約束したんだ」と、言った。
「お姉さんって?」
「この前来てた、
酔っぱらいのお姉さんだよ」
「あ~あの方ね。
そのお姉さんと約束を?」
「うん!
でも、お母さんにも誰にも教えない。内緒の話しなんだ。
それが、お姉さんとの固い約束だからね」
「そう……。
固い約束なら仕方ないわね。
お母さん訊かない事にするわね」
そう言いながらも、
志津子は少し不安気になり、脚は幾分遅くなった。
親子は構内を出ると、少し下った先に交差点が見えて来た。
その交差点の横断歩道を渡ると、神楽坂の坂に差し掛かった。
「この坂ぁ上がるんだろ。
お母さん……ほらぁ、早くぅ」
今度は画一が母親の手を引いた。
「ちょっと画一ぃ、腕が」
「ほらってばぁ……早くぅお母さん」
師走で賑わう坂を、
親は子に引かれて、上がって行くのだった。
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真弓は丁度その頃、
この坂を反対側から上がって行くところだった。
手には、手提げ袋に入った贈り物が、
しっかりと握られていた。
(絵一喜ぶかな……。
あたしがもっと早くにしっかりと聞いとけば、
こげな拗(こじ)れた話しにはならんかったのに……)
師走の風は冷たく吹き、
坂は行き交う人で狭く感じられた。
真弓と志津子親子は、
人を避けながら坂道を上がりきろうとしていた。
そんななか、最初に見つけたのは画一だった。
「あっ、お姉さんだ!
お母さん、お姉さんが向こうからやって来るよ。
ほらっ、あそこにーーーっ!」
「……えっ」
志津子は人を避けながら、背筋を伸ばして首を傾けた。
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