眞弓と志津子の再々会……

3/9
前へ
/26ページ
次へ
´  と、ぶつぶつ言いながら上体をを起こし、志津子は歩き始めた。 「お母さんってばぁ」 「ぅん……何てぇ画一?」  画一は、母親に引かれてまた顔を上げると、 「あのね…お母さん、 僕はお姉さんと約束したんだ」と、言った。 「お姉さんって?」 「この前来てた、 酔っぱらいのお姉さんだよ」 「あ~あの方ね。 そのお姉さんと約束を?」 「うん! でも、お母さんにも誰にも教えない。内緒の話しなんだ。 それが、お姉さんとの固い約束だからね」 「そう……。 固い約束なら仕方ないわね。 お母さん訊かない事にするわね」  そう言いながらも、 志津子は少し不安気になり、脚は幾分遅くなった。  親子は構内を出ると、少し下った先に交差点が見えて来た。  その交差点の横断歩道を渡ると、神楽坂の坂に差し掛かった。 「この坂ぁ上がるんだろ。 お母さん……ほらぁ、早くぅ」  今度は画一が母親の手を引いた。 「ちょっと画一ぃ、腕が」 「ほらってばぁ……早くぅお母さん」  師走で賑わう坂を、 親は子に引かれて、上がって行くのだった。      ▼  真弓は丁度その頃、 この坂を反対側から上がって行くところだった。  手には、手提げ袋に入った贈り物が、 しっかりと握られていた。 (絵一喜ぶかな……。 あたしがもっと早くにしっかりと聞いとけば、 こげな拗(こじ)れた話しにはならんかったのに……)  師走の風は冷たく吹き、 坂は行き交う人で狭く感じられた。  真弓と志津子親子は、 人を避けながら坂道を上がりきろうとしていた。  そんななか、最初に見つけたのは画一だった。 「あっ、お姉さんだ! お母さん、お姉さんが向こうからやって来るよ。 ほらっ、あそこにーーーっ!」 「……えっ」  志津子は人を避けながら、背筋を伸ばして首を傾けた。 ´
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加